三日坊主な日々のことや、手づくり市のことなどなどなど~
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『ぐるぐるといふもの』
たった数年、離れていただけなのに、こうも懐かしい思いがするのはどうしてだろう。嫌いで飛び出した畑や田んぼが、野や山のにおいが、不思議と懐かしい。
身勝手な自分を呼び戻したのは、縁を切ると言っていた両親だった。久々の対面に、こんなに頼りない人たちだったのかと驚いた。逃げるようにして出て行ったあの時の面影は、全く無い。どこか怯え、そして疲れ切っていた。
否、
本当に呼び戻したのは、あの時に、たった一人だけ味方をしてくれた兄だった。兄は今、
「出してやれないのか」
「・・・あいつが、出てこないのだ」
庭の片隅にある土蔵を見上げると、明り取りの窓から、うっすらと光が漏れているのが見えた。兄は今、その中にいる。精神を病み、母屋で生活することができなくなったと聞いている。詳しくは教えてくれず、ただか細い声で泣きながら「帰ってきて」と電話口で訴える母の声にたまらず、急いで身支度をして駆けつけたのだった。
「いったい、何が原因なんだ」
泣きはらした目を伏せる母は、すすり泣くばかりだ。顔すら上げてもらえないのを苛立ちながら、それではと、あんなに嫌っていた父に問うた。父も、大切な兄を救えないことが歯がゆいらしく、気丈な人だったろうに、今は疲れ果て目元には深いしわが何本も刻まれていた。ぐっと噛みしめる口元は、あの時のように固く引き結ばれている。いつもであれば、勝手にしろと逃げ出すところ、今回ばかりはそうもいかなかった。頑固者であろうが、話してもらわねば此処へ帰ってきた意味が無いではないか。
「・・・」
「・・・」
長い沈黙が続く。母はまだ泣いており、嗚咽も混じるようになってきた。話してくれる気配が無いのであれば、あとはもう、兄本人に聞くしかない。
縁側を降り、裸足のままで土蔵へ向かう。
「おい!」
そこで、ようやく父の声を聞いた。何、構うものか。そのまま進もうとしたところ、どこにそんな力を残していたのか、いつの間にか駆け寄った母親に強く腕を取られ、危うく転びそうになってしまった。
「やめてぇ、今日はそっとしてあげてぇっ・・・」
まるで悲鳴のようだった。いったい、兄はどうなってしまっているのだ。こうまで人を心配させる人ではなかったはずだ、さっぱりわからない。まるで駄々っ子のように泣きじゃくる母に逆らえず、引きずられるようにして、ゆっくりと母屋へ戻された。
そこへ、父がぽつりと、吐き捨てるようにして言葉を漏らした。
「ぐるぐるだ・・・」
続く
たった数年、離れていただけなのに、こうも懐かしい思いがするのはどうしてだろう。嫌いで飛び出した畑や田んぼが、野や山のにおいが、不思議と懐かしい。
身勝手な自分を呼び戻したのは、縁を切ると言っていた両親だった。久々の対面に、こんなに頼りない人たちだったのかと驚いた。逃げるようにして出て行ったあの時の面影は、全く無い。どこか怯え、そして疲れ切っていた。
否、
本当に呼び戻したのは、あの時に、たった一人だけ味方をしてくれた兄だった。兄は今、
「出してやれないのか」
「・・・あいつが、出てこないのだ」
庭の片隅にある土蔵を見上げると、明り取りの窓から、うっすらと光が漏れているのが見えた。兄は今、その中にいる。精神を病み、母屋で生活することができなくなったと聞いている。詳しくは教えてくれず、ただか細い声で泣きながら「帰ってきて」と電話口で訴える母の声にたまらず、急いで身支度をして駆けつけたのだった。
「いったい、何が原因なんだ」
泣きはらした目を伏せる母は、すすり泣くばかりだ。顔すら上げてもらえないのを苛立ちながら、それではと、あんなに嫌っていた父に問うた。父も、大切な兄を救えないことが歯がゆいらしく、気丈な人だったろうに、今は疲れ果て目元には深いしわが何本も刻まれていた。ぐっと噛みしめる口元は、あの時のように固く引き結ばれている。いつもであれば、勝手にしろと逃げ出すところ、今回ばかりはそうもいかなかった。頑固者であろうが、話してもらわねば此処へ帰ってきた意味が無いではないか。
「・・・」
「・・・」
長い沈黙が続く。母はまだ泣いており、嗚咽も混じるようになってきた。話してくれる気配が無いのであれば、あとはもう、兄本人に聞くしかない。
縁側を降り、裸足のままで土蔵へ向かう。
「おい!」
そこで、ようやく父の声を聞いた。何、構うものか。そのまま進もうとしたところ、どこにそんな力を残していたのか、いつの間にか駆け寄った母親に強く腕を取られ、危うく転びそうになってしまった。
「やめてぇ、今日はそっとしてあげてぇっ・・・」
まるで悲鳴のようだった。いったい、兄はどうなってしまっているのだ。こうまで人を心配させる人ではなかったはずだ、さっぱりわからない。まるで駄々っ子のように泣きじゃくる母に逆らえず、引きずられるようにして、ゆっくりと母屋へ戻された。
そこへ、父がぽつりと、吐き捨てるようにして言葉を漏らした。
「ぐるぐるだ・・・」
続く
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こよみ
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プロフィール
HN:
ぐるぐるねこ屋
性別:
非公開
自己紹介:
【出店情報】
8/30(14:00-20:30)
愛知-豊川稲荷「豊川きつね祭」
9/5(15:00-30:30)
京都一条通-大将軍八神社「モノノケ夜市」
【一部作品販売】
京都一条大将軍商店街
「八幡屋」様
京都上賀茂御園橋ちょい西
「イヌ・ネコ 手づくり雑貨のお店 REN」様
【期間限定委託販売】
8/14-25
東京‐東急ハンズ渋谷店「渋谷モノノケ市」
8/30(14:00-20:30)
愛知-豊川稲荷「豊川きつね祭」
9/5(15:00-30:30)
京都一条通-大将軍八神社「モノノケ夜市」
【一部作品販売】
京都一条大将軍商店街
「八幡屋」様
京都上賀茂御園橋ちょい西
「イヌ・ネコ 手づくり雑貨のお店 REN」様
【期間限定委託販売】
8/14-25
東京‐東急ハンズ渋谷店「渋谷モノノケ市」
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